ちから「ず/づ」く

 吉梨さんの記事(http://kizurizm.blog43.fc2.com/blog-entry-2190.html)を読んでたら、「力づく」と「力ずく」の二種類の表記には違いがあることにはじめて気づいた。いままで気づかなかった自分のめでたさ加減も、なかなかアレだw。
 改めて辞書をひいたら、下記のようなことらしい。

ちから【力】──ずく【力・尽く】(正かな:──づく)
(1)ありったけの力を出して事に当たること。「──で押し倒す」(2)道理を無視して無理やりにすること。暴力や権威による強引なやり方。「──でも奪い取ってみせる」
ちからづく【力付く】
(一)動カ五[四] 勇気が出る。勢いづく。元気になる。「励ましの言葉に──・いて再び立ち上がる」(二)動カ下二→ちからづける

参考:大辞林三省堂

 この【力尽く】の【尽く】は、これだな↓。

ずく【尽く】(正かな:づく)
(接尾)〔「尽くし」の略から〕名詞に付く。(1)ただその手段だけで、それにものを言わせての意を表す。「腕──」「力──」(2)ただそれだけの目的での意を表す。「欲得──でつきあう」(3)それをした上で、そうすることによって、の意を表す。「納得──で決めたこと」「相対──」「相談──」(大辞林

 で、【力付く】の【付く】は、これかな↓?

づく【付く】
(接尾)〔動詞五[四]段活用。動詞「付く」の転〕名詞またはこれに準ずる語に付く。(1)そのような状態になる、そういう様子が強くなる意を表す。「秋──・く」「調子──・く」(2)そういう事が頻繁に起こる、しょっちゅうそういう状態になるの意を表す。「最近お客──・いていて、今日も何人か来た」(大辞林

 現代かなづかいでは、一部の例外を除いた正仮名遣い(歴史的仮名遣い)の「づ」を「ず」と改めて書くことにしているらしいので、「力尽く」の正かな表記の「尽(づ)く」は、現代かなでは「尽(ず)く」に改まっている。
 いっぽうの「力付く」に「づ」が残されているのは、現代かなの例外扱いらしい。例外の指標は、文化庁の現代仮名遣いによる国語表記の基準ページ(http://www.bunka.go.jp/kokugo/main.asp?fl=list&id=1000003927&clc=1000000068)によれば、以下のようになっている。

  • 5 次のような語は,「ぢ」「づ」を用いて書く。
    • (1)同音の連呼によって生じた「ぢ」「づ」
      • 例  ちぢみ(縮) ちぢむ ちぢれる ちぢこまる つづみ(鼓) つづら つづく(続) つづめる(約△) つづる(綴*)
      • [注意] 「いちじく」「いちじるしい」は,この例にあたらない。
    • (2)二語の連合によって生じた「ぢ」「づ」
      • 例  はなぢ(鼻血) そえぢ(添乳) もらいぢち そこぢから(底力) ひぢりめん いれぢえ(入知恵) ちゃのみぢゃわん まぢか(間近) こぢんまり ちかぢか(近々) ちりぢり みかづき(三日月) たけづつ (竹筒) たづな(手綱) ともづな にいづま(新妻) けづめ ひづめ ひげづら おこづかい(小遣) あいそづかし わしづかみ こころづくし(心尽) てづくり(手作) こづつみ(小包) ことづて はこづめ(箱詰) はたらきづめ みちづれ(道連) かたづく こづく(小突) どくづく もとづく うらづける ゆきづまる ねばりづよい つねづね(常々) つくづく つれづれ
    • なお,次のような語については,現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等として,それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし,「せかいぢゅう」「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。
      • 例  せかいじゅう(世界中) いなずま(稲妻) かたず(固唾*) きずな(絆*) さかずき(杯) ときわず ほおずき みみずく うなずく おとずれる(訪) かしずく つまずく ぬかずく ひざまずく あせみずく くんずほぐれつ さしずめ でずっぱり なかんずく うでずく くろずくめ ひとりずつ ゆうずう(融通)
      • [注意] 次のような語の中の「じ」「ず」は,漢字の音読みでもともと濁っているものであって,上記(1) ,(2)のいずれにもあたらず,「じ」「ず」を用いて書く。
      • 例  じめん(地面) ぬのじ(布地) ずが(図画) りゃくず(略図)

http://www.bunka.go.jp/kokugo/main.asp?fl=show&id=1000001727&clc=1000000068&cmc=1000003927&cli=1000004142&cmi=1000001718

 「監督の励ましによって力付く」の【ちからづく】は、上の例だと【力】+【付く】の『二語の連合によって生じた「づ」』にあたるから、「づ」を残しているんだなー。なるほど。
 しかし、「三振を力尽くで奪う」の【ちからずく】は【腕尽く(うでずく)】の仲間になるから、『現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等』に数えられて、原則では【力尽(ず)く】だけど【力尽(づ)く】でもいいものになるんじゃないのかな?
 つまり、【力尽く】と【力付く】の両方とも、現代かな遣いで「ちからづく」と書いても間違いじゃないかもしれないのかも。むむむ、難しすぎ。文法をちゃんと勉強しておけばよかったorz。
 でも、【力尽く】と【力付く】は正仮名遣いで書いたらどっちも「ちからづく」だけど、アクセントは【力尽く】が「ち→か↑ら→ず→く→」(音階:C-D-D-D-D)で、【力付く】が「ち→か↑ら→づ→く↓」(C-D-D-D-C)になると思う。だから、耳で聞いたときには間違えることはないよね。
 あれー、そうすると、「ちからつきる」はどうなる?

ちからつきる【力尽きる】
持っている力をすべて出し尽くし、それ以上の力が出なくなる。「──・きて倒れる」(大辞林

 つまり、

  1. 三振を力尽(ちからず)くで奪う
  2. 監督の励ましによって力付(ちからづ)く
  3. 百五十球を投げて力尽(ちからつ)きる

 1、2、3はぜんぶ違うことばで、1も2も活用しても3にはならない! すごい。いま初めて気づいたw。
 文法って超ややこしい。こんな難しいことを考えこまなくても感覚的に叩き込まれているように、小学校の先生はあんなに厳しく国語の授業をしてくれていたんだな。S先生、ありがとうございますー。
 しかし、いくら自分が理系だとはいえ、母国語の文法がここまで怪しいのはマズいかも。洛陽社の『国文法ちかみち』とかをもう一度ちゃんと読んで、日本語を勉強しなおさなきゃダメかな……orz。

現代かなづかいってけっこうファジーなのかな(7月30日追記)

 上の記事について、コメント欄でnさんとyms-zunさんに以下のようなことを教えて頂いた。ありがとうございます!

n 『いやこれ文法関係ないです。』 (2007/07/29 00:51)

yms-zun 『いえ、1と3は同じ言葉です。「力尽くで」とは「力を尽くして」と同じ意味ですので。「尽く」は「つく」であり、他の言葉と合体すると「づく」になるのが当然です。こんなに判り易い法則もありませんよね? 怪しいのは「現代かなづかい」の方ですよ。』 (2007/07/29 22:14)

syulan 『ありがとうございます!
現代かなづかいに、すこし曖昧な部分があるんですね。
正かなはさすがにしっかりしているんですね。
ウェブ上で正字正かなを使うのはめんどくさいので
ヱビスビール」というときぐらいですが、すこし正かなも勉強してみますー。』 (2007/07/30 17:40)